UK,2007

 

子供たちが大好きな「きかんしゃトーマス」

世代を超えて愛されるトーマスですが、その原作は、イギリス人の牧師ウィルバート・オードリーが息子のために読み聞かせたオリジナルの絵本でした。

 

原作の誕生から75年。イギリスだけでなく、今や世界各国で愛されるキャラクターとなったトーマスは、絵本から飛び出し、アニメや映画の世界へ。94日(金)には劇場版最新作の「映画 きかんしゃトーマス チャオ!とんでうたってディスカバリー!!」が公開されます。(映画の見どころについては前編でご紹介しています。)

 

今回は、ソニー・クリエイティブプロダクツで長年「きかんしゃトーマス」のビジネスを担当していた久岡たつやさんに、その歴史や制作秘話についてのお話を伺いました。

 

 


 

きかんしゃトーマスの歴史

 


 

 

—– 「きかんしゃトーマス」の原作者について教えてください。

 

久岡さん:「きかんしゃトーマス」の原作者は、イギリス人の牧師、ウィルバート・オードリーです。はしかで家から出られなくなった息子のクリストファーが飽きないように、鉄道の話を作って聞かせてあげていました。それが1945年に出版された「汽車のえほん」シリーズの1巻目「3だいの機関車」の元になったと言われています。

 

3だいの機関車」では、すでに機関車たちに顔がついていたり、それぞれが個性的な性格のキャラクターだったりと、今の「きかんしゃトーマス」の原型となっていますが、実はこの絵本にはトーマスは登場しておらず、ゴードンやエドワード、ヘンリーが主役でした。

 

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第2巻「機関車トーマス」

 

トーマスが初めて登場したのは、1946年に出版された第2巻「機関車トーマス」でした。トーマスは、ウィルバート・オードリーが息子のクリストファーにプレゼントした手作りの機関車がモデルとなっています。クリストファーはそのおもちゃをとても気に入り、トーマスと名付けました。そうして誕生したのが「きかんしゃトーマス」の主人公です。その後、「汽車のえほん」シリーズは1972年まで全26巻出版されました。

 

 

—– 「感情を持つ機関車」というユニークな設定を、作者はどういった経緯で思いついたのでしょうか?

 

久岡さん:原作者のウィルバート・オードリーは、子供の頃、イギリス南部の町、ボックスに住んでいました。そこにはグレート・ウェスタン鉄道のトンネルに通じる丘があり、夜になると、そこで作業するたくさんの機関車の音が毎晩聞こえたと言います。それらの音をベッドで聞いていたウィルバート・オードリーは、「機関車は人間と同じように感情を持っている」と想像したのが、のちに出版された「汽車のえほん」シリーズのきっかけとなりました。

 

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原作者ウィルバート・オードリー

 

ウィルバート・オードリーは、空想のお話であっても、物語にリアリティを持たせるためにさまざまなこだわりを持っていました。例えば、このお話に登場する機関車たちは、実際に英国を走っていたもので、それぞれどこの鉄道会社で働いていたかわかるようになっています。また、実際の鉄道で起こったエピソードなどを集め、それらを元に物語をイメージしていたようです。

 

 

—– 「きかんしゃトーマス」では機関車たちが「役に立つ機関車でありたい」と願う姿が印象的です。何か理由はあるのでしょうか?

 

久岡さん:人のために働き、役に立つことの大事さを説くことは、原作者であるウィルバート・オードリーが牧師であることから、教訓的な内容を多く取り入れたものと思われます。ほかにも、あきらめないで努力する機関車たちの話や、ずるいことや悪いことをすると必ずその報いを受けるというお話、しかし心改めれば必ず報われるというお話など、牧師らしい考え方が元になったストーリー構成だと言えるでしょう。

 

 


 

きかんしゃトーマスの制作秘話

 


 

 

—– 今はCGアニメーションでトーマスたちの豊かな感情表現ができるようになりましたが、CGの前はどのように撮影されていたのでしょうか?

 

久岡さん:1984年から2009年まで放映されたTVシリーズは、モデルアニメーション(人形劇)という技法を用いて撮影されました。イギリスには、TVシリーズ「サンダーバード」に代表される、模型とマリオネットを使った制作手法があり、「きかんしゃトーマス」の映像制作にも、監督やスタッフを含め「サンダーバード」と同系列番組の経験者が多数関わっていました。

 

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ロンドン郊外のスタジオのステージに、シーンごとの情景と線路を引き、機関車をラジコンで操作して天井から吊るした移動カメラで撮影していました。機関車は、線路を走る小さな模型でしたが、目の動くアップ用は大きな模型で撮影するなど、使い分けて撮影されていたようです。

 

 

—– 制作サイドから見て、昔のモデルアニメーションの良さ、そして今のCGアニメーションの良さを、それぞれ教えてください。

 

久岡さん:原作者であるオードリー牧師が、映像のクオリティにこだわった結果、セルアニメーションではなくミニチュア模型を使った英国の伝統的特撮手法の人形劇に行き着いたのがこのシリーズの魅力を決定づけたと思います。

 

もともと鉄道の世界は、鉄道模型という子供から大人まで魅了するジャンルがあります。模型になると、画面の中のトーマスが自分のものになるという感覚があり、よりリアリティがでます。お子さんがトーマスの模型やおもちゃで自分のお話を作って遊ぶことが、トーマスの人気拡大の背景になったと思います。オードリーさんも、息子に鉄道の話をするときに、一緒に手作りの機関車のおもちゃを与えていますね。

 

CGアニメーションになると、世界観や表現力が格段に広がり、表情が豊かになって様々な感情が表現できるようになりました。また、機関車の大きさやスピード感も増幅し、何よりトーマスが世界に飛び出して色々な世界の仲間に出会えるようになったことでお話の多様性と魅力が大きく膨らみました。

 

今後も技術開発が進めば、さらに新しい表現方法の可能性が広がっていくと思います。原作者ウィルバート・オードリー牧師の鉄道に対する愛情をベースに、これからもシリーズを続けていってほしいですね。

 

UK,2007

 

UK,2007

 

—– 久岡さんは日本で最も長く「きかんしゃトーマス」のビジネスに関わられているとうかがいましたが、印象的だったエピソードなどはありますか?

 

久岡さん:「きかんしゃトーマス」はイギリス原作の物語なので、テレビや映画で上映するまでに権利元とさまざまな交渉事を通す必要があります。

 

たとえば、1990年末、初めてイギリスに契約と企画の打ち合わせに行った時のこと。おもちゃメーカーさんの企画で「ヘンリー」のリアルな大きいおもちゃの企画を持ち込みました。現地で図面を見てもらったところ「このヘンリーが古いので新しいヘンリーにしてほしい。」と指摘されました。実は、「フライング・キッパー」というエピソードで、ヘンリーは事故を起こし、それ以降、以前より火力が強く新しくなって活躍するようになったので、その事故より後のヘンリーは外観が変わっていました。しかし、こちらが持ち込んだ図面は、最初のヘンリーのままでした。権利元のキャラクターに対する強いこだわりを知った体験でした。

 

この話にはちょっとした後日談があります。実は、おもちゃメーカーは、年末商戦に合わせるため、リスク覚悟で金型を進めていました。急いで権利元の意見を日本に伝えたのですが、金型変更には大金がかかったようです。また、そのことを伝えるため、一緒に出張していた上司は、ホテルの部屋から日本に頻繁に電話をしていました。チェックアウト時に精算したところ、電話代だけで50万円を越える金額になっていました。こちらも痛い出費でしたね。

 

また、権利関係で苦労した別のエピソードもあります。大井川鐵道のきかんしゃトーマスイベントは、おかげさまで大人気のイベントになりましたが、およそ20年前、初めて大井川鐵道と保有する蒸気機関車C11をトーマスに改造する企画を提案した時のことです。当時の権利元の責任者は、形がトーマスと違うとあっさり却下。現在の大井川のトーマス号は、実は何度も交渉を重ねようやく実現したものです。意匠の工夫と関係者の情熱が認められた結果だと思います。おかげで夢が叶いました。

 

©2020 Gullane(Thomas)Limited.

 


 

取材を終えて

 


 

テレビや映画でさまざまな冒険を繰り広げるトーマスですが、原作となったのは、イギリス人の牧師さんが病気で療養中の息子のために聞かせてあげたお話だったと聞き、胸が熱くなりました。そんなエピソードを知ると、もしかしたらトーマスは子供たちの夢を実現するために毎日頑張っているのかもしれないと思えてきます。

 

最新作ではソドー島を飛び出し、イタリアで冒険を繰り広げるトーマス。これからもトーマスと仲間たちの活躍に目が離せません !!

 

 


 

最新作『映画 きかんしゃトーマス チャオ!とんでうたってディスカバリー!!

 

©2020 Gullane(Thomas)Limited.

登場キャラクター

 

Thomas トーマス

青いボディで頑張り屋の小型タンク式蒸気機関車。車体番号は1番。石炭と水を燃料にして走ります。小さいけれど働き者です。ナップフォード駅から始まる「トーマスの支線」を走っていて、バーティーと競争するのが好き。客車のアニーとクララベルが大好きです。一番の友だちはパーシー。

 

Gina ジーナ(『走れ!世界のなかまたち』で初登場)

自分が生まれた国・イタリアをこよなく愛する情熱的な女の子の機関車。トーマスがイタリアについて間違ったことを話すと、ちょっとだけ怒ってしまいます。

 

Rolenzo ロレンツォ

歌を愛するイタリアの古い機関車。みんなの反対を押し切って宝さがしに出かけて、鉱山で迷子になってしまいます。

 

Beppe ベッペ

ロレンツォと同じく歌が得意で、ロレンツォの歌のパートナー。バスパートを担当。

 

Stefano ステファノ

世界中の機関車や車を運ぶことができる、とても大きな水陸両用車。お話をすることが大好きです。

 

【トーマスチャンネル公式サイト】

http://www.thomasandfriends.jp/

 

【最新作『映画 きかんしゃトーマス チャオ!とんでうたってディスカバリー!!』サイト】

https://movie2020.thomasandfriends.jp/