2020年の年間ベストセラー(トーハン調べ)において児童書部門2位となった「なぜ僕らは働くのか」。読んだことはなくても、書店で見かけたことがあるという方も多いのではないでしょうか?

 

子供を保育園に預けながら仕事を続けてきた私にとって「なぜ働くのか」という問いはとても身近なものでした。しかし、いつも自問自答するだけで、誰かの考えを聞く機会はありませんでした。

 

人生100年時代と言われる現代。これからの仕事や働き方はどんどん変化していくでしょう。私はこの本を、自分自身のこれまでのキャリア観に対する答え合わせとして、そして子供たちへの参考書として購入しました。

 

 

中高生だけでなく、現役社会人にも深く突き刺さるメッセージ

 

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「なぜ僕らは働くのか」は、中高生へ向けたキャリア教育の本です。タイトルにある通り、働くことの意味を問う「仕事ってなんだ?」という章で始まり、仕事と生活の関係や、さまざまな働き方の形、やりたい仕事の見つけ方など、「働く」ということを多面的に見つめる内容となっています。

 

さらに読み進めていくと、これからの社会において避けて通ることのできない「AI(人工知能)」や「人生100年時代」といったキーワードも登場します。これらは、近年話題となったビジネス書「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」や「LIFE SHIFT(ライフ・シフト)」にもつながる内容となっているため、今現役で働いている大人が読んでも新しい発見が見つかるのではないでしょうか。

 

 

漫画やイラストが満載で読みやすい

 

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AIなどの言葉が出てくるので「子供には少々難しい内容なのでは?」と不安になる方もいるかもしれませんが、心配する必要はありません。各章の導入部分は漫画形式になっていて、中学生の主人公が悩みながらも前を向いて進んでいくストーリーが展開します。読者は、主人公と一緒に本を読み進めるような気分を味わうことができ、すぐに本の世界に没頭することができます。解説文にもイラストや図が使用されており、とても読みやすいです。

 

巻末には索引も用意されているので、ニュースなどで気になったキーワードを、こちらの本で調べるという、図鑑のような使い方もできます。

 

 

ママライターの感想:「なぜ僕らは働くのか」を読んで

 

自分が子供の頃のことを思い出してみると、ここまで実用的に「働くこと」について説明してくれている本はなかったように記憶しています。もしかしたら、私はそういった本に出会わなかっただけかもしれませんが、今この本に出会える子供たちは幸運だと思いました。

 

本書に出てくる「ワークライフバランス」という言葉を、私が初めて知ったのは20代後半の頃でした。私の父は会社員だったため、働くことといえば朝から夜まで会社で勤務することだと思っていました。また、その頃は残業が当たり前の時代。「ワークライフバランス」という言葉が社会全体に浸透するまでは、私自身も長時間勤務に対してあまり疑問を抱いていませんでした。

 

しかし、本書では、会社員以外(酪農家やマンガ家など)のさまざまな働き方や、「クオリティ・オブ・ライフ」という考え方(自分らしい生活を送り、人生に幸福を見出しているかどうかを考えるための言葉)についても紹介されています。子供の頃から、仕事に対して多面的な価値観を持つことをできていれば、「どう働きたいか」ということをじっくり考え、将来の仕事選びのための準備ができそうです。

 

また、本書の第3章「好きを仕事に?仕事を好きに?」では、自分の好きなことからどんな仕事が導かれるのかということについての解説があります。例えば、サッカー好きの子供にとって、すぐに思いつく仕事はサッカー選手です。しかしプロ選手になるのは狭き門なので、途中で挫折してしまうと、サッカーを諦めてしまわなければいけないかもしれません。本書では、それ以外にもサッカーに携わる仕事はたくさんあることを教えてくれます。そういった選択肢を知っていれば、プロのサッカー選手になれなくても、「サッカーが好き」という気持ちを持ったまま、他の仕事にチャレンジすることができるでしょう。

 

現在我が家の子供たちは小学1年生と未就学児。今まさに好きなことを見つけ始めている時期なので、まだこの本を読むには時期尚早かなと思っています。しかし、いつか将来について考える日がやってきたら、ぜひ親子で一緒に読みたいと考え、リビングの児童書コーナーにそっと置いています。

 

 

ママライターの答え合わせ:なぜ私は働くのか?

 

本書は、子供に向けたキャリア教育本ではありますが、大人にとっても読み応えがある一冊です。

 

大学を卒業した後、あたり前のように就職活動をして仕事を続けてきた私が、最初にこの疑問に向き合ったのは長男の妊娠が分かった時です。当時の仕事は楽しく、やりがいも感じられましたが、育児をしながら仕事を続けていけるのかという不安と共に、子供を保育園に預けてまで働く意味とは何だろうと考えるようになりました。

 

金銭的な理由や社会貢献など、働く意味は思い浮かびましたが、私にとっては「子供との時間を犠牲にしてまでなぜ働くのか」という問いに対して、自分で心から納得できる答えは、なかなか見つけられませんでした。

 

それでも、長男を出産し、産休・育休を経て、保育園や職場の仲間に支えられながら仕事に復帰すると、育児だけではない社会人としての自分の役割をはっきりと自覚しました。「社会とのつながりを保つこと」が、私が当時見つけた仕事の意味です。本書の第1章でも「仕事は誰かの役に立つこと」であり、働く理由の一つは「助け合いでつくられるこの社会の一員になるため」と説明されていて納得しました。

 

しかし、仕事と育児との両立を毎日継続することは、当初の想像以上に大変でした。子供の体調不良によって欠勤が続くと、職場に対する罪悪感が膨らみ、また仕事でチャレンジできなくなっていく自分にも嫌気がさしていきました。働く場所や時間に囚われずにもっと自然体で働くことはできないのだろうか?と考えた結果、私は、副業を経てフリーランスという働き方にチャレンジすることにしました。

 

本書でも「安定の保障はないが自由がある雇われない働き方」として、会社経営者や個人事業主などの働き方が紹介されています。私自身、収入面では不安定な生活を送りつつも、今の自分にとっては一番満足できる働き方だと実感していますので、こちらの解説文は現実的だと感じました。

 

自分や家族のライフステージの変化に応じて、私はこれからも仕事や働き方を変えていくと思います。もし悩むことがあれば、その都度この本を手に取り、相談相手として何度も読み返すでしょう。

 

 

おわりに

 

「なぜ僕らは働くのか」は、小学校高学年から中学生の子供を持つご家庭におすすめのキャリア教育本です。また、毎日の生活の大半を占める仕事について、迷いや悩みを感じる大人にとっても大変役立つ本です。親子で一緒に読むときっと新しい発見があるでしょう。